国税庁が2024年に公表した国税庁統計法人税表によると、2022年度の赤字法人率は64.8%で日本企業の約7割が赤字となっています。
赤字と聞くと経営状態が悪いというネガティブなイメージを持ちがちですが、税務上の理由からあえて赤字にする企業も少なくありません。
とはいえ、事業継続や成長のためには資金調達が必要であり、赤字でも資金調達できるのか不安に思う経営者もいるのではないでしょうか。
そこでこの記事では、赤字決算を検討する理由やデメリット、赤字決算でも活用できる資金調達方法などを紹介します。ぜひ参考にしてください。
そもそも赤字決算とは?
赤字決算とは、企業が一定期間(通常は1年間)の事業期間を行った結果、収入よりも支出が多くなってしまった状態です。具体的には、売上から仕入れ費用や人件費、家賃、広告費などすべての経費を差し引いたときに、マイナスになる状況です。
しかし、赤字だからといって、すぐに会社が倒産するわけではありません。企業が倒産に至るのは手元資金がなくなり、支払いができなくなったときです。赤字であっても手元資金に余裕があれば、当面の支払いは問題なく、事業を継続できます。
また、本業は赤字でも不動産や投資収益など本業以外の収益があれば、企業全体としては存続できます。こういった理由から、多くの企業が赤字を計上しながらも長年事業を継続できているのです。
黒字でも資金繰りが悪化することもある
なお、決算書上で黒字を計上している企業でも、資金繰りが悪化して倒産してしまうことがあります。
たとえば、売上が好調で利益を出していても取引先からの入金が遅れがちな場合や、急激な事業拡大で仕入れや人件費の支払いが先行するケースでは、実際の入金の出入りがマイナスになることがあります。
売掛金が増えているものの、回収まで時間がかかり、その間の仕入れや経費の支払いのための手元資金が足りなくなる状態です。決算書で利益が出ていても実際のお金の流れは別物なのです。
そのため、赤字よりも資金繰りが悪化することのほうが企業にとって良くありません。赤字であっても計画的に資金を確保していれば事業を継続できますが、黒字でも支払いができなくなれば信用を失い、倒産に追い込まれます。
これが俗に言う黒字倒産であり、経営者は利益だけでなく、常に現預金残高や今後の資金の流れを把握しておかなければいけません。
企業が赤字決算を検討する理由
日本企業の7割が赤字企業です。しかし、業績不振の企業がいる一方で、あえて赤字決算にしている企業もいます。以下で、企業が赤字決算を検討する理由を見ていきましょう。
法人税の負担が減るため
赤字決算の場合、法人税の負担がなくなるメリットがあります。法人税は「法人税額=課税所得×税率−税額控除額」で計算されますが、赤字の場合は課税所得がゼロとなり、法人税がかかりません。
ただし、赤字決算でも支払い義務のある税金もあり、法人住民税の均等割や固定資産税は利益に関係なく課税されます。また、資本金1億円を超える企業は法人事業税がかかる点に注意しましょう。
法人が支払う税金について、以下の記事で詳しく紹介しているので、こちらもあわせてチェックしてみてください。
繰越欠損金制度を活用できるため(法人:10年間、個人:3年間)
繰越欠損金制度を活用できることも、企業が赤字決算を検討する理由の1つです。繰越欠損金制度とは、発生した赤字を将来の黒字期間に繰り越して相殺できる制度です。
仮に1年目が50万円の赤字、2年目が100万円の黒字だったとしましょう。本来であれば、2年目の100万円の黒字に対して課税されますが、繰越欠損金を活用すれば、1年目の赤字50万円を差し引いた50万円に対して課税されます。
なお、繰越できる期間が決まっており、法人の場合は最大10年間、個人事業主の場合は最大3年間認められています。
中小企業の場合法人税の還付金を受け取れるため
中小企業に関しては、法人税がかからないだけでなく、赤字決算時に前年度に納付した法人税の一部が還付される、欠損金の繰戻し還付制度と呼ばれるものもあります。
資本金1億円以下の中小企業が青色申告を行っていた場合、赤字が発生した事業年度の前年に黒字で税金を納めていれば、その納付税額の範囲内で還付を受けることが可能です。還付金の計算式は以下のとおりです。
還付額=法人税額×(当期の赤字金額÷前期の所得金額) |
たとえば、前期の所得が1,000万円で法人税額が200万円、当期の赤字が600万円の場合、「200万円×(600万円÷1,000万円)=120万円」となり、120万円の還付金を受け取れます。なお、資本金5億円以上の法人の100%子会社は対象外です。
赤字決算のデメリット
税務上のメリットがあることで赤字決算を検討する企業もいますが、事業を運営していく上でのデメリットもあります。以下で、2つのデメリットを見ていきましょう。
資金調達のハードルが高くなる
赤字決算を続けると、銀行などの金融機関からの融資を受けにくくなります。金融機関は融資審査において、企業の返済能力を重視するためです。
赤字企業は収入よりも支出が多い状態であり、複数期にわたって赤字が続く場合、「売上が上がらない→将来的に返済が見込めない」という懸念から、融資が困難になります。
また、審査が通ったとしても、金利が高くなったり、担保や保証人の条件が厳しくなったりするケースも少なくありません。
債務超過と倒産のリスクが高まる
赤字決算が続くと、債務超過に陥るリスクがあります。債務超過は、負債が資産を上回っている状態で、会社が持っているものをすべて売却しても、借金を返済できない状況です。
赤字企業でも事業を継続できているのは、これまでの黒字期間に蓄積した資産があるからです。しかし、赤字が続くと徐々に資産が減り、最終的には債務超過に陥ります。
債務超過に陥ると、取引先からの信用も失いかねず、さらに資金繰りが厳しくなる悪循環に陥ります。
とはいえ、赤字と同様、債務超過になったからといってすぐに倒産するわけではありません。返済期限に余裕がある負債のようにすぐに支払う必要がなければ、事業活動を続けられるでしょう。
一方、緊急性のある負債であれば、支払いが滞ると会社の存続に関わります。特に運転資金が枯渇した状態で手形の不渡りを出すと、銀行取引停止処分となり、事実上の倒産状態に追い込まれます。
赤字でも銀行融資を受けられる?
ここでは、様々な赤字の種類について触れながら、赤字でも銀行融資を受けられるかについて解説します。
創業期の赤字
創業したばかりの企業が赤字というのは、実はよくあることです。新規事業を立ち上げるには、設備投資や人材確保、マーケティング費用などの先行投資が必要です。
しかし、すぐに事業が軌道に乗るとは限らないため、売上が追いつかないのは自然な流れとも言えます。
そのため、初期投資を考慮した事業計画書を提出し、創業から何年後に黒字化する見込みを明確に示すことができれば、銀行も融資してくれる可能性があるでしょう。
一時的な赤字
すでに事業を展開している企業が一時的に赤字になるケースもよくあります。
自然災害による被害や大型設備への投資、一時的な市場環境の悪化など、外部要因や未来への投資によるものであれば、金融機関もその状況を考慮してくれることが多いでしょう。
ただし、収益が回復する見込みがある、かつ具体的な経営改善施策を示すことが重要です。
たとえば、新設備が稼働することで生産効率が上がり収益改善が見込めることや、すでに受注している将来の案件など、将来的に赤字を解消できる根拠を示せれば、融資を受けられる可能性は高まります。
継続的な(3期連続など)赤字
3期以上連続して赤字が続いている場合は、正直なところ銀行融資を受けるのは難しいでしょう。
金融機関からすれば、継続的な赤字は事業自体に問題を抱えている可能性が高く、融資金の回収リスクが大きいと判断されるためです。継続的な赤字はいずれ倒産につながりかねません。
融資を受けるにしても担保や保証人が求められるケースがほとんどです。金利も高めに設定され、資金調達コストも増えます。
赤字決算でも活用できる資金調達方法
赤字決算で銀行融資が厳しいときでも、諦める必要はありません。赤字企業でも活用できる資金調達方法は他にも複数あります。以下で、5つの資金調達方法を見ていきましょう。
ファクタリング
ファクタリングは、将来入金される予定の売掛債権をファクタリング会社に売却して現金化できる取引です。ファクタリングの審査では、企業の決算状況ではなく、売掛債権の価値や回収性に重点を置いているため、赤字企業でも利用できます。
手続きも銀行融資に比べて早く、最短即日で現金化することも可能です。融資のような借入ではなく、バランスシート上の負債にはなりません。
ただし、手数料やサービス内容はファクタリング会社によって異なるため、複数社の条件を比較することをおすすめします。
手数料など条件を比較するなら「Payなび」を利用するのがおすすめです。Payなびでは複数のファクタリング会社に一括で申し込みができます。複数社の手数料や入金時間を比較検討できるため、最適な条件のファクタリング会社を選ぶことができます。
日本政策金融公庫
日本政策金融公庫は赤字企業に対しても前向きに融資を検討してくれる金融機関です。中小企業や小規模事業者に対して様々な支援や融資制度を行っています。
その中でも経営環境変化対応資金は、景気の変動や災害などの外部要因で一時的に業績が落ち込んだ企業、あるいは市場の変化に適応するために設備投資を計画している企業を対象とした融資制度です。
最大融資額は7億2,000万円、返済期間も設備資金で15年以内、運転資金で8年以内と余裕があります。
信用保証協会の制度融資
信用保証協会は、中小企業の資金繰りを支援することが目的の公的機関です。通常の融資(プロパー融資)では中小企業の場合、返済できなくなるリスクが高いと判断され、銀行側が融資をためらうケースもあります。
しかし、信用保証協会が保証人となることで、銀行のリスクを減らせるため、融資が受けやすくなります。企業は代わりに信用保証協会に保証料を支払う仕組みです。自治体による制度融資なら、保証料が補助されることもあります。
万が一返済が難しくなった場合には、信用保証協会が企業に代わって銀行へ返済を行います。これを代位弁済といいますが、返済がなくなるわけではありません。代位弁済をした後、信用保証協会に対して返済を行う必要があります。
不動産担保ローン
不動産担保ローンは、企業の業績より担保となる不動産の価値を重視するため、赤字企業でも比較的利用しやすい資金調達方法です。
銀行などの金融機関だけでなく、ノンバンクの不動産担保ローンであれば、銀行で断られた場合でも融資を受けられる可能性があります。
また、二番抵当や三番抵当でも融資を受けられるケースもあり、すでに抵当権が設定されている不動産でも活用できます。金利は無担保ローンより低く抑えられる傾向にあり、長期の借入が可能なことも資金繰り改善に役立ちます。
クラウドファンディング
クラウドファンディングは、インターネット上で不特定多数の人から資金を集める方法で、決算状況にかかわらず資金調達が可能です。製品やサービスの魅力を届けられれば、赤字企業でも資金を集められる可能性があります。
購入型・寄付型・融資型・株式型など様々な形態があり、事業内容に合わせた選択が可能です。
銀行融資とは異なり、事業の将来性や社会的意義、製品の魅力などが評価され、独自の強みを持つ赤字企業にとってぜひ検討したい資金調達方法です。マーケティングやプロモーションにつながるメリットもあります。
資金調達以外で資金繰りを改善する方法
「売上の目処は立っているが支払いが先行する」
「赤字でも支払わなければならない固定費の支払い期限が迫っている」
そんな一時的な資金繰りの苦しさを乗り切るには、請求書カード払いサービス「カード払いくん」の活用がおすすめです。
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赤字決算でも資金調達はできる!
赤字は法人税の軽減や繰越欠損金の活用、場合によっては法人税の還付金を受け取れるなどのメリットがあります。しかし、赤字が続くと倒産のリスクが高まるため注意が必要です。
とはいえ、創業期の赤字や一時的な赤字など、状況によっては赤字でも銀行融資を受けられる可能性もあります。
また銀行融資以外にも、ファクタリングや日本政策金融公庫、信用保証協会の制度融資など、複数の資金調達方法があります。自社の状況に合わせて資金調達方法を選びましょう。